ドラマの中の甲状腺
フィクションの受け止め方
K&M企画室の関です。
今回は、あるドラマの話をします。
私はドラマ好きで、深夜ドラマは別として、たいていのクールで7-8割のドラマは録画で見ていますが、今も昔も多いジャンルのひとつが医療ドラマ。
この類は、リアルな日常のなかでも起こることを取り上げがちですが、あくまでフィクションだということを頭に入れておかないと、間違った認識を信じ込んでしまうことになりかねません。
今年の春のドラマの中で、それを強く感じたことがありました。
そのドラマは、毎回、なかなか原因のわからない症状の患者が登場し、超越した頭脳をもつ医者である主人公が、圧倒的な医学知識と天才的な洞察力を駆使して、そのなぞを解き明かして正しい診断を下すというものでした。
ある回に、甲状腺と昆布の話が登場しました。
日々元気に活躍している政治家の女性が、上腸間膜動脈塞栓症という病気で手術をすることになります。手術は成功したのですが、術後、錯乱気味になって、手の震え、体重減少、イライラなどの精神症状、高熱も出て、生命の危険に陥ります。そこで主人公の天才医師が、手術した病名などから彼女が甲状腺機能亢進症であることを見抜き、抗甲状腺薬を投与することで症状が改善するのですが、なぜ術後に体調を崩したかというと、日常的に大量に食べていたおつまみ昆布が入院中は食べられなかったためというのです。
それまで甲状腺ホルモン値の上昇を抑えていた昆布を食べられない日が続き、手術のストレスなどと重なって重症の甲状腺クリーゼ※1に陥ってしまったのでした。毎日おやつがわりにおつまみ昆布を食べていたその女性は、昆布によるヨード(ヨウ素)過多の影響でホルモン合成力が低下し、ふだんは甲状腺機能亢進症であるバセドウ病の症状がおさえられていたのでした。
つまり、そのバセドウ病の患者には、知らないうちに昆布が薬がわりになっていた!?というドラマ展開でした。
ヨード過多で大丈夫?
見ていた私は、一瞬、びっくりしました。
昨年秋に発売になった書籍『甲状腺ホルモンの底力』(K&M企画室)には、昆布の量を制限して、ヨード過多による体調の悪化を防ぐ話を載せています。でもそれは、主に甲状腺機能低下症の場合のことなので、甲状腺機能亢進症であるバセドウ病の場合はどう考えるのが正解なのか? と、とっさに混乱しました。
甲状腺機能亢進症であるバセドウ病の人がヨードを過剰に摂取すると、甲状腺機能がさらに亢進してしまうことはないのか? と心配になったからです。
ところが、甲状腺専門医である山内泰介先生に聞いてみると・・・。
そのさらなる亢進が昆布のヨード過多で起こるのは、あくまで食物のヨードの欠乏している国などの話で、もともとヨード過剰気味の日本ではほとんど起こりえないというのです。
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[山内泰介医師の解説]
ヨードは多くの食材に含まれていますが、海藻類、中でも昆布に多量に含まれます。
甲状腺ホルモンの材料となるので、私たちにとってなくてはならないミネラルで、ほとんどが甲状腺に集まり、甲状腺ホルモンをつくる濾胞細胞に取り込まれます。
体内では合成されないので食物として摂取していますが、日本の食事はヨードを含む海産物が多く、不足することよりも過剰摂取が問題になります。
ヨードが多すぎると濾胞細胞への取り込みが抑えられ、ホルモン分泌量が低下します(ウォルフ‐チャイコフ効果)。
通常、健常者はこの効果が2~3日で解消され元に戻ります(エスケープ現象)が、橋本病などの病気に罹患すると元に戻らず、永続的な甲状腺機能低下症に陥ることがあります。
そこで、甲状腺機能亢進症であるバセドウ病の患者においてもエスケープ現象が起きない(ホルモン産生力が抑制されたままになる)ことがあることを利用して、多量のヨード製剤を服用して甲状腺ホルモン値を下げるという補助的な治療※2が行われることもあります。
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ドラマの中のおつまみ昆布のエピソードは、このメカニズムを織り込んだもので、確かに、バセドウ病の人に起こりえることかもしれません。ただ、「だからと言って、嗜好品として食べた昆布で治療ができたとは考えにくいですね」と山内先生。
昆布の食べ過ぎによるトラブル
むしろ、勝手な判断で昆布を食べすぎると、どんなトラブルにまきこまれるかわかりません。それはバセドウ病の人も、甲状腺機能に異常をきたしているからには同じことのようです。バセドウ病の抗体があってもなくても、甲状腺機能の亢進が気になる人が、このドラマを真似ておやつに昆布をポリポリ食べて、体調を整えようとするのは危険。その量によっては甲状腺ホルモンの数値が低くなりすぎて、コントロールが難しくなる場合も考えられます。
また、知らない間に橋本病の抗体ができていた人は、昆布の食べ過ぎで甲状腺機能低下症が進んでしまうことも。そして、健常者の場合はエスケープ現象が起きるとはいっても、ウォルフ‐チャイコフ効果によって一時的な影響は受けますし、繰り返すうちに、数値が戻らなくなるケースも。それほど、昆布のヨード含有量はほかの海藻と比べものにならないくらい桁違いに多いのです。だからこそ、こんなエピソードとしてドラマに登場したりもするわけです。
(詳しくは、書籍『甲状腺ホルモンの底力』『私たちも甲状腺』(ともにK&M企画室)をご覧ください。
当初、私が考えたように、一気に全員の甲状腺ホルモン値が上がりすぎるという心配は山内先生の説明によって払拭されましたが、うっかり昆布を食べすぎたときのトラブルも知っておいていただけたらうれしいです。
ドラマはドラマ。あくまでフィクションと割り切って筋書きを楽しむのはいいのですが、状況を考えずに、浅い理解のまま真似するのは危険です。
医療的なヒントは、慎重に考えたうえで、医師の指導のもとに取り入れるように気をつけたいものですね。特に甲状腺関連のメカニズムは非常に複雑なので、書籍などで日頃から正しい知識を頭に入れて、自分はもちろん、家族やまわりの人たちも判断を間違わないようにすることが大切です。

※1 甲状腺クリーゼとは、バセドウ病など、甲状腺ホルモンの高値をうまくコントロールできず、さまざまな臓器に障害が起こる難病。
※2 ヨード製剤は、抗甲状腺薬と併用したり、軽症例に対する単独療法として処方されます。
