甲状腺ノート

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「頑張ってるのに、なんで?」それは体の節電モードかも! ——低T3症候群のこと

疲れ だるさ 更年期 低T3症候群 甲状腺ホルモンの底力 元気の源甲状腺を考える会  山内泰介

編集/ライターの蓮見則子です。

美容や健康まわりを長く取材してきた中で、ちょっとびっくりするような「ダイエットの落とし穴」に出会ったことがあります。

私自身もダイエットアドバイザーの資格を取ったりしながら情報を集めていたひとり。そんなときに知ったのが「低T3症候群」という言葉でした。

頑張っているのに体がついてこない!

今から10年ほど前。糖質制限やロカボ、ケトジェニックなど糖質を控えるダイエット法が流行っていた頃の話です。

適当にネットなどでかいつまんだ知識だけで、糖質制限ダイエットに取り組む女性が少なくありませんでした。SNSなどでも、ダイエット記録を投稿している女性が多かったものです。

「なんで? 頑張ってるのに全然痩せないし、むしろ前より体が重くてだるい、疲れる…」
そんなふうにこぼしていたのは、40代の女性。手足が冷え、体が重く、やる気も出ない日々が続いていたそうです。

「まだ努力が足りないのでは?」「更年期の症状では?」など、周囲は無責任にコメント。

とりあえず婦人科で診てもらうと、まだ更年期ではないという診断。彼女はますます焦ってしまいました。

そんなとき、糖質制限に詳しい先生のブログで見つけたのが「低T3症候群」という言葉。

お米やパン、スイーツを日常的にたくさん食べている人が、急に厳しい糖質制限をすると、体が「飢餓状態に陥った!」と錯覚し、甲状腺ホルモンのT3が不足するというのです。

その記事のことを伝え、甲状腺の数値を検査してくれる病院に行ってはどうかと提案しました。

その頃の医療機関では、低T3症候群という単語さえわかってもらえず、「甲状腺機能低下症かもしれないので検査をしたい」と電話で伝え、ようやく検査できるクリニックが見つかったほどでした。

そこでわかったのは、やはり甲状腺ホルモンのうちT3の低下。まさに予感した通り、低T3症候群でした。

低T3症候群は、病気の名前ではなく「状態名」。
体がなんらかの事情でエネルギーをセーブしようとした結果、T3ホルモンだけが少なくなる。そんな節電モードみたいな状態です。

甲状腺自体に異常があるわけではなく、栄養不足、強いストレス、重い病気…など、体へ大きな負荷がかかったときに起こりやすいのです。

ダイエットで、なぜ更年期のような症状に?

正しい糖質制限は「糖質は控えても、タンパク質とよい脂質をとる」ことです。糖質だけでなくタンパク質や脂質まで控えてしまうのは、昔からある「カロリー制限」。

カロリーを極端に減らしてしまうと、
体は「飢餓状態だ」「非常事態だ」と判断してしまいます。「エネルギーを節約しよう!」と、体が勝手にブレーキをかけてしまうんですね。

そのときに、まず減らされるのが甲状腺ホルモンの「T3」。T3は体のエンジンをまわす小さな火種のようなもの。
これがなければ動こうとしても力が出ない。エネルギー代謝も体温調節もスローダウンしてしまいます。

疲れやすい、冷えやすい、痩せにくくなる、動くのも嫌…といったダイエットの本来の目的とは逆のことが起きてしまうのです。

頑張ってるのにうまくいかない——そんなとき、体はちゃんとサインを出していたのかもしれません。「もっと頑張れ」じゃなく「ちょっと立ち止まって」のサイン。

低T3症候群は、甲状腺の病気じゃない!

その後、間違った糖質制限をして低T3 症候群に陥った人が増えたことで、WEBサイトなどでもようやくこの言葉を見かけるようになりました。

40〜50代以降は、どうしても昭和のダイエット常識「カロリー制限」の呪縛から抜け出せません。糖質を減らした分、エネルギーとなる脂質とタンパク質をたくさんとる必要があるのに、食べないから飢餓状態になる。

ダイエットを頑張っていて「だるい、疲れる、痩せない…、更年期かな?」と思った方は、低T3症候群も視野に入れてみて。

ちなみに、低T3症候群は甲状腺の病気ではないので、薬などを使う治療も必要ありません。ダイエットが原因なら食事を戻すことで改善するんです。

「食べ方を見直して体に安心してもらう」ことがポイントかもしれません。心配な方は相談だけでもいいので、まず医療機関に話してみるのもひとつの手です。

この症例や病態については、私たち「元気の源・甲状腺を考える会」の本「甲状腺ホルモンの底力」の中にも出てきます。

気になった方はぜひ読んでみてくださいね。

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